外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
ウジウジと独り言を呟いていた私が、突如勢いよく顔を上げて口走ったお願いに、奏介が驚いた様子で素っ頓狂な声をあげた。


「お願い、奏介! お義母さん、来月もぜひって言ってくれた。せめて、奏介と一緒にお茶会に出席した時、妻として恥ずかしくないくらいのお作法を覚えたい!」

「あ~……」


奏介は弱り果てた様子で、声を小さく尻すぼみにした。
返事を逡巡する様子で、口元に手を当て、まっすぐ前を向いている。


「来月のって、大寄せだろ?」

「大寄せ?」


奏介がボソッと口にした耳慣れない言葉を、私は反射的に聞き返す。


「素人でも楽しめるように、略式で催される茶会。だから、別に恥にもならない」

「っ……奏介っ!」

「……まあ、そんな必死な顔するくらいなら、協力はするが」

「じゃあ、お願い!」


渋々、といった奏介の返事に、私は勢いよく食いついた。
彼は私にチラリと横目を向けて、前方の赤信号に従ってゆっくりとブレーキを踏んだ。
スーッと滑るように車は停まり、ほとんど振動は感じられない。
奏介はふうっと口をすぼめて息をついた。


「七瀬。別に、無理しなくていいんだぞ? 茶道家元なのは俺の実家であって、七瀬は弁護士の俺の妻なんだから」


奏介は窘めるような口調で言って、私に顔を向けた。
それには、大きく頷き返す。
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