扉の向こうはいつも雨
「まぁまぁ。ご当主様。
 大層なお荷物ですね。」

「大丈夫。自分で持てるから。」

 本家に着き、手伝いに来ている者が宗一郎に声をかけた。

 本家と言ってもここには誰も住んでいないらしく、たまに管理している遠縁の親戚が掃除をしに来ているらしかった。

「静かに調べたいから誰も部屋には来させないで。」

「えぇ。承知しております。
 何かあればお声かけください。」

 話していた人が去り、辺りは静まり返った。
 そこからしばらくしてやっと解放された。

「狭かったよね?大丈夫?」

「はい。バレないかドキドキしました。」

 桃香が生きていることは誰にも知られてはいけない。
 特にこんなところでは。

 だから荷物と偽って大きな鞄に入っていたのだ。
 いくらキャスター付きだからと言って運ばせるのは申し訳なかった。

「桃ちゃんと悪巧みするのは楽しいね。」

 桃香の心配とは裏腹に宗一郎は楽しそうだ。
 窓から漏れる光に照らされて笑った顔が眩しい。

 薄い色の両眼も、色素の薄い肌も髪も。
 明るい日の元にいると美しさが際立つ気がした。

「私と、って宗一郎さんだけで来た方が楽だったんじゃないですか?」

 桃ちゃんとなら行けると言われ勘違いをしていた。
 桃香となら。というよりは、今なら行ける。なのだ。

 神の子が生け贄を食した……と思われている今なら。

 再び悪戯っぽい顔で微笑んだ宗一郎が「桃ちゃんとだから来れたんだよ。僕だけじゃ恐ろしくて」と肩を竦めた。

 どこまで本当か分からない。
 少なくとも桃香は敵の本拠地に乗り込んだような気持ちで心細かった。

「しかし…ここを当主様だけの為に残しておくのはすごいな。」

 立派なお屋敷の部屋数はかなりある。
 趣きのある日本家屋は名家の辻本家、樋口家に相応しい立派な造りだ。

 この本家の当主は生け贄を食した後の神の子のみがなれるのだという。

 そしてここでは当主が絶対だ。
 誰にも知らせずにここに来れる権利があったのはありがたかった。

 親と……連絡を取り合う宗一郎を見たくなかった。

「どうしたの?ほら。こっち。」

 宗一郎に声を掛けられて現実へと引き戻された。
 今は、2人のことを調べる方が先だ。

 桃香は手招きされた方へと歩を進めた。




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