扉の向こうはいつも雨
 暗く長い通路をよもや2人で通るとは思ってもみなかった。
 長い、長い暗闇。

 立ち止まった場所は儀式の扉。
 扉と言ってもあの日のまま開かれたまま。

「こちらの通路に来たことはないよね?」

 振り向いた宗一郎に促されて逃げて来た通路から扉をまたいで向こう側に足を踏み入れた。

 拍子抜けするほどに思っていたよりずっと簡単だった。
 くぐった向こう側は禍々しくもなく至って普通だ。

 樋口家の通る通路と扉を隔てただけの、ただ続いている通路。

「こっち」と連れて呼ばれ、ついて行くと小さな小部屋だった。

「ここは……?」

「道案内役が待つところ。
 途中からは僕の待合室だったけどね。」

 樋口家同様、案内役が付いてきていたのだ。
 しかし……。

「僕の……待合室?」

 桃香の質問に遠い目をした宗一郎はポツリポツリと話し始めた。

「情けないけど…僕を神の子なんて崇めていたのは両親くらいで言い伝えを知る親戚の人には疎まれた子どもだった。」

「え……だって。どうして。」

 尊い神の子だからこそ生け贄を捧げるもので、神の子だからこそ許される……。

 桃香の疑問に宗一郎は自虐的に笑って続けた。

「簡単だよ。人喰いだよ?
 儀式まで辛抱できずに無差別で食べないって誰が言えるの?」

「そんな………。」

 瞳が悲しく揺れて閉じられた。
 泣いてしまうと思っていた瞳は開かれて桃香を見つめた。
 その眼差しは温かかった。

「大丈夫だよ。もう過ぎた話だ。」

 思いを馳せるように遠くを見つめ、それからまた話し始めた。

「桃ちゃんに話したかったのは、そんなことじゃなくてね。」

 宗一郎はそっと小部屋の片隅を指差した。

「ここ。」

 指差した場所は机の引き出しだった。

「鍵が掛かってる。」

 指し示されたところには小さな鍵穴。

「気になって、毎年、針金を持って来たり試してみたけど開かなかった。
 儀式の時にしか入れないここで試すには限界もあったから開かないままなんだ。
 鍵をかける必要はないよね。
 ここには決まった人しか入らないはずだ。」

 それなのに開かずの引き出し……。












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