扉の向こうはいつも雨
 心が沈んで、けれどそんなことを思ったのは束の間だった。

 手を当てた手の隙間から笑い声が漏れ聞こえた。

「それは好都合なのかな。
 不意打ちで唇を奪いたい放題ってことだ。」

 顔を隠すように覆っていた手は口元に移動して、いたずらっぽい笑みを隠すように添えられた。
 露わになった瞳はいたずらを隠しきれない子どもみたいな、それでいて透き通るような美しさを放っていた。

 その美しい瞳に吸い寄せられるように動けない桃香は両腕をつかまれて宗一郎の方へ引き寄せられた。
 よろめいた体は宗一郎に抱きつくような形で着地した。

 今まで気づかなかった薄い服の向こう側にある男の人の肌の感触にドギマギする。

「あ、あの……。宗一郎さん?」

 今、どういう状況ですか?と聞きたいのに、欲しい答えは返って来ずに質問を質問で返された。

「目がそらせなくて固まってしまうのは僕への好意による緊張って自惚れてもいい?」

 宗一郎の胸元にうずめた顔を引き上げられてもう一度目が合った。

 すぐ近く、あと少しで唇と唇が触れてしまいそうな距離に心臓が悲鳴を上げて壊れそうな音を立てた。

「そ、宗一郎さん?」

「ん?」

 小首を傾げたこの美しい人に何か言える人なんていない。
 息を飲んで何も言えない桃香に宗一郎は微笑んだ。

「僕のこと愛してくれてるんだよね?」

 意思とは関係なく震える唇は儀式の時の恐怖とはどこか違う。
 それでも震える唇では言葉を上手く操れず、たどたどい答えを返した。

「スキ……で、す。」

「うん。僕も好きだよ。」

 ゆっくり近づいて、それからそっと唇が触れた。

「愛してる。」

「わ、私も……です。」

 甘い囁きに急激に顔へ熱が集まってくるのを自覚する。

 強く抱きしめられて顔を再び宗一郎の胸にうずめた。

「ずっと、ずっと好きだったよ。
 君と初めて会った時から。」

「え?」

 驚きで上げた顔に優しいキスが降り注いで質問の答えは聞くことが出来なかった。

 降り止まないキスに恥ずかしくなって三度、宗一郎の胸に顔をうずめる。

 そして宗一郎の体に腕を回した。
 きつくきつく抱きしめて、これからもずっと離れないように。








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