きみが赤を手離すとき。



「……おい、おい!」

せっかく先輩とケーキバイキングに行っていた夢を見ていたのに、病人に対する接し方とか思えないほど乱暴な声で起こされる。

ふたつ下の思春期真っ只中の弟だ。私のことを〝おい〟や〝お前〟としか呼ばずに、汚い部屋を豚小屋と罵るほど可愛げのないヤツ。


「もう、なに?」

先輩とのデートが台無しだ。


「なにじゃねーよ、これ」と、弟がビニール袋を私に差し出す。その中身は明らかにドリンクらしきものが入っていて、私は目を丸くさせた。


「ど、どうしたの……風邪うつった?」

熱がある姉のためにドリンクを差し入れするほどのウイルスが入り込んでしまったんだろうか。弟がくれるものなんて、いつも『捨てとけ』と命令するゴミしかないのに。


「は?ちげーよ。ほら、前に一緒に歩いてた人から」

「一緒に……歩いてた?」


私が弟に目撃されたことといえば、傘を忘れた時に先輩に家まで送ってもらったぐらい。

その時はまだ美羽さんとは付き合ってなかったし、考えてみれば、あれが告白のチャンスだったって……。

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