お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
こちらも父と同様、今日の私の見合いに合わせて新調したらしく、ローン残高は減らないどころか増す一方だろう。


江戸後期に創業し、名の知れた製茶卸問屋であった家業は、昭和の中頃の最盛期には千人ほどいたという従業員数を三十人まで減らして、すっかり落ちぶれてしまった。

緑茶市場の大きな売り上げを占める大手飲料メーカーが、問屋を通さずに直接茶葉を契約農家から買い付けるため、そういう状況に陥っている。


誰が悪いのかといえば、時代の波に乗り損ねた父であり、こうなればもう細々と生き長らえる道を模索して、栄華を極めた過去はスッパリと忘れるべきである。

それなのに、浪費癖の治らない両親には困ったものだ。


ひとり娘の私が実に庶民的な感覚を持って育ったのは、学費の高い私立には入れず、小中高と静岡の普通の公立校で過ごしたためであろう。

私は身の程をわきまえていて、交際相手は自分と同程度の庶民がいいと思っているのだが、両親は織部家の娘に相応しい相手をと、良家のお坊ちゃまとの見合い話をひっきりなしに持ってくるのだ。

もちろん全てお断りしているが、今日のお見合いは今年に入って四度目で、通算だと十回目になる。


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