お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
それを『素敵な人』と言った茜に引きずられるように、私も『いい人なのかな……』と思い始めていた。

けれども、隣のテーブルの女性客が「でね、ほんと俺様で困る」と、どうやら彼氏についての愚痴を友人に話していて、それを耳にした私はハッとした。


上司風を吹かせたり、自慢したりはしない男だけど、彰人も俺様だ。

偉そうで命令的なところはなんとかならないかと思うし、『素敵な人』ではないはずである。


茜節に騙されるところだったと息をつき、水を飲みつつ、私らしい考え方を取り戻そうとする。

ところが、そうはさせまいとするかのように、「ふたり暮らしでよかったと思うことは?」と茜が笑顔で攻めてきた。


「同居の利点?」と考えさせられた私は、「そんなの特にない……」と言いかけて、「あ、あった」と訂正した。

些細なことだけど、便利だと思ったことはある。


身長、百五十八センチの私が食器棚の最上段にしまわれている皿を取り出すには、踏み台が必要となる。

自宅アパートでは同じ理由で、流し台の上の棚が使いにくいと感じていた。

それが、踏み台を持ってこずとも、『彰人』と名前を呼びさえすれば取ってくれるのだ。

舌打ちが付いてくるけれど……。

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