お見合い相手は俺様専務!?(仮)新婚生活はじめます
怒っていても口で叱責するだけで、決して手を上げたりしない性格であることはわかっていた。

だから私は怯むことなく「もとはと言えば、そっちが悪いんじゃない」と反論に転じる。


「家では名前で呼べと言うから、咄嗟の時にああいう間違いが起こるんだよ。私だけが悪いんじゃない。改善策が欲しいなら、彰人も一緒に考えて」


強気な視線をぶつければ、「可愛くない女だ」と舌打ちした彼だが、目線を壁に向けて黙り込んだところを見ると、思案してくれている様子。

それから数秒して考えがまとまったようで、私に視線を戻した。


「社内で俺を見かけたら、腕時計を握る癖をつけろ」

「え、なんで腕時計?」


意味がわからず左手首につけている安物の腕時計と、彰人の真顔を見比べてしまう。

すると彼は「こうするんだ」と私の右手を取って、腕時計を握らせ、その理由を口にした。


「お前、家では腕時計をつけないだろ。仕事でしか使わない腕時計を握ることで、ここが社内であるという認識を意識化させることができる。それとーー」


加えて、彼の名を口にしてしまう前にワンアクションを挟むことによって、自分に注意を与える時間が生まれるという説明であった。

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