イジワル上司にまるごと愛されてます
「ピアス、大切にするね」
「ああ、うん」

 柊哉は低い声で言って、右手に持ったグラスをじっと見た。

「ホントは……昨日渡そうと思ってたんだ」
「あー……ごめん。私が先に帰っちゃったから」
「昨日は彼氏に呼び出されたのか?」

 柊哉は顔を上げて、まっすぐに来海を見た。

「えっ?」
「俺を置いて急いで帰るくらいなんだ。相当好きなんだろうな」
「あー……」

 来海は視線をローテーブルに落とした。

「そいつと別れてほしい」

 柊哉が言うなり左手を伸ばして来海の右手に触れた。来海は驚いて手を引っ込めようとしたが、彼は来海の手をギュッと握った。

「来海には幸せになってほしいんだ」
「どうしてそんなことを言うの……」

 まだ柊哉のことを忘れられない来海にとっての幸せは、彼が来海を好きになってくれることだ。けれど、そんなことはとても言葉にできない。

 こんなにも想いをこじらせたままで、どう幸せになれというのか。

 来海はやるせない気持ちで柊哉を見た。
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