イジワル上司にまるごと愛されてます
「すみません。取引先からのメールをギリギリまで待ってたんです」

 敦子はもともと一人で全世界からの商品の輸入と企画の責任者を務めていた。しかし、会社の成長に伴って業務量が増えたため、敦子がヨーロッパ・アメリカ地域を担当し、新たにアジア・アフリカを担当する主任として、来海が任命された。輸入量も売上高もヨーロッパ・アメリカ地域の方が圧倒的に多く、業績から見ると、来海は敦子に遠く及ばない。

「みんな揃ったようだから、歓迎会を始めるか」

 来海の前に座っていた部長が言い、部長の隣の席の社員が店員に合図をした。店員はドリンクの注文を聞いて個室を出た。ほどなくしてそれぞれが注文したドリンクと、“フルーツトマトとモッツァレッラのカプレーゼ”や“生ハムとサラミの盛り合わせ”、“真鯛のカルパッチョ”などの前菜が運ばれてくる。

「雪谷課長には就業時間前に挨拶してもらっているし、堅苦しい挨拶はなしにしよう」

 部長がスパークリングワインの入ったグラスを掲げて続ける。

「これからの輸入企画部の、そして我が社の発展を祈念して、乾杯!」

 今日は部長のありがた迷惑な長い話もなく、スムーズに歓迎会が始まった。
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