イジワル上司にまるごと愛されてます
 彼は耐えるように目を伏せ、大きく息を吐き出す。そうしてゆっくりと体を起こした。

 来海の腰の辺りでベッドのスプリングが軋む。

「やめよう」
「え、なんで、どうして?」

 来海は片肘をついて上体を起こした。柊哉は右手でくしゃくしゃと自分の前髪をかき乱す。

「ダメだ。俺には来海は抱けない」

 柊哉はいら立たしげに息を吐いた。

 ここまで来て拒否されるなんてあんまりだ。来海は必死の思いで柊哉のスーツの袖を掴む。

「どうして? 理由を教えてよ」

 柊哉はキスのせいでふっくらと赤みを帯びた来海の唇を見やり、すぐに視線を逸らした。

「ダメなものはダメなんだ」
「私が初めてだから……? だから、ダメなの?」

 柊哉は大きく息を吸い込み、来海に鋭い視線を向ける。

「ああ、そうだよ。俺ならもう会えなくなるし、後腐れなく処女を捨てるのにちょうどいい相手だと思ってたんだろ?」
「まさか! そんなこと思ってない! 私、柊哉のことが」
「それ以上言うな」

 強い口調で遮られ、来海はビクッとして口をつぐんだ。
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