イジワル上司にまるごと愛されてます
 柊哉に振られた直後、自分を見失いそうになった。けれど、目の前にやらなければならない仕事があった。部長にアジア・アフリカ地域の仕事を任されるようになって、『キミの成長を期待している』と言われた。そしてそれは大好きなインテリア雑貨にかかわる仕事だったから、潰れそうな心を立て直すことができたのだ。

「くそっ」

 柊哉がいら立たしげな声を上げ、来海の顎から手を離した。直後、彼の背後から女性の声が聞こえてくる。

「なにしてるのよ?」

 柊哉がハッと振り返り、彼の肩越しに敦子の姿が見えた。来海はバッと後ずさる。

「ゆ、雪谷課長がトイレの場所がわからないって言うものでっ! 説明していましたっ」

 来海はそれだけ言うと、個室に向かって駆け出そうとした。だが、脚がもつれて、壁に左手をつく。

「なにやってるんだ」

 柊哉の声が聞こえたかと思うと、右の二の腕を彼に掴まれ、まっすぐ立たされた。

「大丈夫ですってば。私に構わないでください」

 来海は柊哉をキッと見た。

「まっすぐ歩けてないのに、放っておけるわけないだろ」
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