蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
今日はどんな顔をして会ったらいいのかと照れてしまう一方、早く彼に会いたくてたまらなかった。
けれど、朝から兄が会社にいないとなれば、もちろん佳一郎さんもいないということになり、もうしばらく浮ついた気持ちのままでいることになりそうである。
どうしても緩んでしまう口元を手の平で隠しながら、私も父や兄に続いて家を出た。
愛しい彼の顔を思い浮かべながら、心の中で“佳一郎さん”と呼びかけてみる。
まだちょっと慣れないし照れてしまうけど、そう呼べることが嬉しくて仕方がない。
やっぱり社内では“中條さん”と呼ぶべきだろうかと幸せな悩みに浸って歩いていると、どんっと、目の前を歩いていた兄にぶつかってしまった。
「わっ、お兄ちゃんごめん。ぼんやりしてたらぶつかっちゃった……あれ」
ぶつかった相手を見て、思わず身をのけ反らせた。
てっきり兄にぶつかったのだと思い謝ってしまったけれど、そうではなかった。
ぶつかった相手は、数年前に父が気に入って買ってきた、私より少し背丈の低いタヌキの置物だった。
「お兄ちゃんじゃない」
「お前、ふざけんなよ。何と俺を間違えてんだよ」