蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
その言葉で、自分が彼女に対抗する術を持っていたことを思い出した。
「いい加減にしてください」と苛立つ彼の手を引けば、少し冷静さを欠いた顔がこちらに向けられる。
任せて欲しいという気持ちを込めて笑いかけたのち、私は繋いでいた手を離し、彼の前に出た。
「佳一郎さんが取締役に就くことを望んでいるなら、私も願いが叶うように力を尽くしたいと思います」
「あなたが? どうやって?」
「まずは父に頭を下げます。そのあと兄に一生懸命頼み込みましょう」
「……父?……兄?」
私にそんな力がないことは重々承知している。
けれど彼女だけにはどうしても嘘を見抜かれたくなくて、私は堂々と胸を張り、そして突然の言葉に戸惑う彼女の目をしっかりと見つめ返した。
「でも佳一郎さんは優秀な人なので、本当に望んでいるなら、私の力など借りなくても自分の力で掴み取ると思いますけど」
「……あなたいったい」
「挨拶が遅れました。倉渕花澄と申します。先ほどは父が大変お世話になりました」
彼女は「倉渕」と私の名前を口にし、ばつの悪さを感じているように私たちから視線を逸らした。
「そう。佳一郎さんは中佐都建設じゃなくて倉渕物産を選んだのね」