蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~

プライベートでも愛しの彼女と同棲中だったりと、全てにおいて絶好調と言って良い。

それに比べて私は……周りに言わせるといろいろ鈍くさいらしい。

確かに、勉強面での成績はいたって普通だったけれど、運動面では人よりちょっぴり劣っていた自覚はある。

注意力散漫なため忘れ物をしたり、約束や話の内容を間違えて覚えていたり、そんなミスしてしまうこともあった。

社会人になってからはものすごく気をつけているからミスはかなり減ったと自分では思っているけれど、それでもやっぱり周りからすると私はいろいろと物足りないようだ。

そんな時は決まって、「本当に花澄ちゃんって“お嬢様”だよね」と言われてしまう。

聞き飽きたその台詞は、たいてい馬鹿にするような響きを伴って発せられるため、その度私ももういい大人なのにと悔しさを噛みしめ、どうしてお兄ちゃんと私はこうも違うのだろうと切なくなるのだ。


「社長! お帰りなさいませ!」


久津間さんの弾んだ声にハッとする。先ほどの兄と同じように、父が私たちへと朗らかに笑いかけながら目の前を通りすぎて行く。

私もすぐに笑顔を浮かべようとしたけれど、父の後ろに続く姿に気付いた瞬間、ほんの一瞬口元が引きつってしまった。


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