蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~

真っ直ぐ前を見つめていた切れ長の瞳が私を捉え、カツっと靴音を響かせつつ目の前で彼が足を止める。

そっと顎に手をあてて、じっと私の顔を覗き込んできた。

彼の冷やかな目線と表情に思わず身をのけ反らせながら、私は顔を強張らせた。


「中條さん、何か御用ですか?」

「えぇ。その顔、いったいどうなされたのかと思いまして」

「顔、ですか?」


まさかどこかにゴミでもついているのだろうか。

そう考えれば、今の今まで知らずに立っていたことが恥ずかしく思えてくる。

ペタペタと自分の顔を触っていると、「お分かりになりませんか?」と呆れたように彼が言う。


「今のあなたは百点満点中、マイナス三十点です。これから西沖グループの富島(としま)様がいらっしゃいます。くれぐれもそのような顔ではなく笑顔でお出迎えして下さい。受付嬢は我が社の顔であることをお忘れなく」

「マイナス三十点っ!? マイナスって……せっ、せめてプラスに……」


我が社の顔だとか笑顔でお出迎えとか、ちゃんとわかってますよと反発したくなるけれど、最初に飛び出した自分への評価が衝撃すぎて、その後へと言葉が繋がらない。


< 3 / 126 >

この作品をシェア

pagetop