結婚のその先に
「兄じゃなくて私が死んでいたら…そんなことを何度考えたか分かりません。」
「……。」
「なのに…私は自分の欲も捨てられない。父や母からの信頼も欲しいし期待も欲しい。啓吾さんの心も欲しい。」
栞菜の声が泣き声になる。
「そんな自分が嫌で、現実から逃げようとしてるんです。私。」
「え?」
「すべてをすてて。1番大切なものだけ抱いて…。最低なことしようとしてます。だからあなたのしたことにもなにも言う資格なんてないんです。」
栞菜は左手の薬指の指輪のあとに触れる。
そこにはもう啓吾とお揃いの結婚指輪はなかった。
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