結婚のその先に
生まれた家が財閥で背負った運命は翠にも痛いほどわかる。兄がいて兄ばかりがちやほやされて翠にはなんの期待もされていない。だからこそ自分の家とは関係のない企業に就職した。

そこで出会ったのが啓吾だった。

翠は栞菜の痛みを知ってそれまで必死になっていた自分の気持ちがしぼんでいくのを感じた。

「頑張れとは言わないけど、あなたにひとつだけ教えてあげる。」
翠は立ち上がり栞菜に背中を向けて話始める。

「ワイシャツの口紅は私。出したままだったワイシャツにわざとつけたの。そこまでしても彼が欲しかった。私をみて欲しかった。」
翠の声が震えている。

「彼はあなたしかみてない。私を見てくれたのは今日がはじめて。それ以上のことは何一つない。」
「え?」
栞菜は思考がついていかなくて翠を見る。
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