SKETCH BOOK



「橙輝くん、梓!
 ちょっと降りてらっしゃい」



お母さんの声がして、
あたしと橙輝は顔を見合わせた。


お母さんが呼ぶなんて、めずらしい。


二人で部屋を出てリビングに行くと、
お母さんがニコニコして


あたし達を待っていた。


その隣にはパパもいて、
パパもどこか嬉しそうに見えた。


「ママたちね、旅行に行くから」


「旅行?どこに?」


「ハワイよ」


「えー。楽しみ!ハワイかぁ」


「何言ってんの?行くのはママたちだけよ」


「は、はぁ?」



お母さんはハワイ旅行の特集が
取り上げられている雑誌を広げて、


嬉しそうに眺めた。


ハワイに旅行?


あたしたちを置いて?


「いいなあ、ハワイ。
 なんであたしらはダメなの?」


「ちょっと早い新婚旅行なものだもん。
 当たり前でしょ」


「だからって、一週間も家を空けるの?」


「そうよ。あんたは橙輝くんと
 仲良くお留守番しててね」


お留守番ねぇ……。


少しの間ぼうっとして、それから
あたしはあることに気が付いた。


お母さんたちが旅行ってことはあたしは……。




「橙輝と、二人?」



< 64 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop