異邦人
「片思い・・・なのか分かんないけど今度会社の年上の先輩と飲みに行く」と言うと周りが一斉に「おおおお」と歓喜の声を上げた。
「なんだよ、年上の先輩って。いくつだ?」と興奮した雅人が乗り出してきた。「今年31歳だって」と言うと更に狂気にも似た歓声が上がった。「おい、すっげー年上だな。美人なのか?」と佐々木が聞いてきたので「まぁ、そうだな。綺麗な人だよ」と言うと場の盛り上がりが最骨頂に達した。
「やるなー、マッスー。自分から誘ったのか?」と高橋が聞いてきたので「まさか。向こうからだよ」と俺が応えると周りからは「おおお」と言う反応に羨望の色が混じってきた。「いやーマッスーにも春が!」と佐々木が言うと先程から黙って聞いていた長谷裕二が真剣な表情をして口を開いた。
「でも、綺麗な女性が声かけてくるって胡散臭くないか。古典でも美しい女性に声かけられて付き合ったら実は化け物だったとか、よくある話じゃん」
「何いつの時代の昔話してんだよ!お前はただ綺麗な子と寝れないから僻んでるだけだろ!」と俺の代わりに雅人が言い返すと「馬鹿言え!比較的可愛い子と寝とるわ!」と長谷裕二が応戦した。二人の醜い口争いを尻目に健吾が「でも、増田って年下とかが好きじゃなかったっけ?」と聞いてきたので俺は、「あー」と間延びな返事をした後すぐに「でも、最近年上も良いかなと思って」と応えた。
「だったらもっと年が近い女にすれば良いのに」と高橋が言ってきたが雅人がすかさず「いや、熟した果実が旨いんだって!」と訳の分からないことを言ってみんなの笑いを誘った。
学生時代の俺は年下か同じ年の子としか付き合ったことがなかったためそれを知ってる健吾は今回の件に疑問を持って聞いてきたのだろうと思った。その通りだと思った。正直俺自身が良くわからなかった。だけど、ただなんとなく木原さんという女性は俺より年が大分離れていようとも人を魅了するオーラを纏った美しい女性だと思った。
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