異邦人
レストランを出ると、彼女は奢られるとは思っていなかったのか「ごめん!高かったでしょ?私も少し払うよ」と言ってきた。俺は「別にいいっすよ。誘ってくれたお礼です」と言うと彼女は納得したのか素直に「ありがとう」と言った。
ビルを出て東京駅まで歩き始めた。俺は、彼女のペースに合わせるようにわざとゆっくり歩くことを意識した。
「そういえば、橋本さんにこのこと言ってなかったんだね」と突然彼女は言ってきたので訳が分からず「なんのことですか?」と聞き返すと「今日、増田くんとふたりっきりで夕食を食べるって言ったら彼女驚いてたから」とケロッと言ってきた。
「えーー!?このこと橋本に言ったんですか!?」俺は驚いて彼女の方を振り返った。彼女は悪びれもなく「うん」と言うと「彼女ってよく増田くんの話してくるのよ。増田くんのことが好きなのかもね~」と話を逸らされた。
「ってか、なんで言ったんですか!あいつに知られたら噂になりますよ!」と俺は少し狼狽して木原さんを非難すると彼女は急に笑い出し「冗談だって!」と言ってきた。
「え?」
「冗談だよ。橋本さんに言ってない」
「じゃぁ、さっきの話は?」
「私の嘘」
「もうやめてくださよ!マジ焦ったじゃないですか!!」と言うと一気に脱力した。
「ごめんごめん。でも増田くんからかうと面白いよね」とあまりにも嬉しそうに言うので俺は「もうやめてくださいよ」といじけるように応えた。「ごめんごめん」と彼女はまた嬉しそうに笑って全然反省してないように思えたがその可愛い表情を見て俺は不本意にも癒されてしまい、それ以上は何も言うことが出来なくなってしまった。
「じゃあね、増田くん。また来週会社で!」「はい、お疲れ様でした!」俺は彼女と改札を抜けて別れると振り返って彼女の後ろ姿を見送った。決して彼女は後ろを振り返らずそのまま進んで人ごみの中に消えていった。

寮に着いてからも俺は何もする気が起きず、そのまま倒れるようにベッドの上に寝転んだ。
電車を乗っていても駅から出て歩いていてもずっと木原さんとのやり取りを思い出しては彼女のことを考えていた。
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