異邦人
タバコを吹かす真似をした時の妖艶な仕草、不意に見せる美しい横顔、俺をからかった時の可愛い笑顔、他の人とはしないような真面目な話とか意外だったけど、全てが魅力的だった。
もっと木原さんと一緒にいたかったなと思った。あのまま駅で別れずにいたらどうなっていたんだろうと思った。大学時代はサークルの女子と飲むことがあってそのままの勢いでやったこともあった。あの頃は先のことも体裁も何も考えていなかった。女の子が「酔っちゃった」と言って俺の腕に抱きついて甘えてくるから簡単だった。だけど、木原さんはそんな軽々しい弱みを見せたり計算をする女とは違っていた。不意に近づいてきたかと思ったらすぐにくるっと翻す、風で揺れ動かされる時があっても風が止めばすぐに凛として咲き誇る花のように、甘い蜜で蝶を魅了する花のように可憐さと魅惑さを持ったまるで花のような美しい女性だった。
もしも、あのまま木原さんと一夜を過ごすことになったらどうなっていただろうと想像してみた。もしあのまま彼女が酔って俺に寄りかかり「今日はずっと増田くんといたい」と言ったら、俺は戸惑いながらも彼女を連れてホテルへと足を運んだだろうか。彼女はベッドに腰掛けると俺に見せながら自らシャツを脱ぎ始めるのだろうか。きっと身体も白く輝いていて美しいのだろう。俺は、シャツの合間から見えた彼女の白い膨らみを想像するとそこで我に返った。彼女とのその先を想像しようとすると自分でも驚く程心臓が大きく鼓動し、興奮して体中が熱くなった。たとえ想像だとしても、背徳感を感じた。職場の先輩を、あの木原さんを想像で抱くことはまるで聖域を犯すようにも感じられた。俺は寝返りを打つと頭の中から彼女を払拭するように深呼吸をして「もう、寝よう」と呟いた。
< 22 / 48 >

この作品をシェア

pagetop