異邦人
「木原さんとこ行ってくる」
「なんで?」と橋本が聞くと「まぁまぁ」と内田君が誤魔化した。まぁまぁじゃねーよ。俺は内心焦った。
佐藤くんが部屋を出ると「もしかして告白?」と橋本が聞いた。「もしかしてやるかもな」とか色んな議論が飛び交った。俺はいてもたってもいられなくなって気づいたら立ち上がっていた。
「どうしたの?」
「え?」
「立ち上がったりなんかして」きょとんとした顔で橋本が聞いてきた。
「あーいや、そのーちょっとトイレ!」
 そう言って慌てて部屋を飛び出そうとして荷物に足をぶつけて「いてー!」と叫んで、出ようとした俺に向かって内田君は心配そうに「正露丸あるけど飲むか?」と聞いてきた。「大丈夫!だけどしばらく戻らないかも」と言うと俺は早足に部屋を後にした。

木原さんのいる部屋のインターホンを押すと数秒経って彼女が出てきた。少し嫌そうな顔をしながら「何?」と聞いてきた。彼女の不機嫌な態度に一抹の不安がよぎった。
もしかして佐藤くんとの良い感じの時に俺が来て水を差したのかと思ったからだった。
「あ、あのーさっき佐藤くんが来たかと思うんですけど」
「うん、そうだね。さっき来たよ。追い返したけど」
「え!?追い返した!?」
「うん、テレビ観てるから一人になりたいって言ったら諦めて帰ったよ」
「え!?そうなんですか?」
佐藤くんとは廊下で鉢合わせにならなかったから彼はどこに行ったのだろうと思った。           「二人してなんなのよ。私になんか用?」
 「いや、あのー・・・なんのテレビ観てるんすか?」
「え?テレビ?お笑いだけど・・・。
「あ、そうなんですね」
引くにも引けずこの後どうしようか迷っていると木原さんから意外な言葉が返ってきた。 「一緒に観る?」
「え!?良いんですか!?」
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