異邦人
俺はどうして良いか分からず混乱していた。頭の中で整理がつかなかった。もう、木原さんと職場で会えない、そう思ったら急に寂しく感じて何も考えられなくなった。
「さようなら」
そう言うと彼女は駅に向かって歩き出した。俺は、彼女の後ろ姿に向かって叫んだ。「今まで本当にありがとうございました!」精一杯の感謝を言うしか俺には出来なかった。もう一度彼女を引き止めて胸の内を告白することも俺には出来なかった。

帰宅した俺は早速彼女からの手紙を取り出した。封筒の中には何枚もの便箋が入っていた。
「こんなに書いて・・・全て俺の悪口だったらどうしよう」と軽口を言った後、俺は恐る恐る手紙を読み始めた。

「増田くんへ。増田くん、お疲れ様!急に手紙とか渡されて困ったでしょう。でも、実は前々から増田くんには別れる前に手紙を渡そうと思っていたの。ずっと誰にも言わずにいたこと、増田くんにだけは話そうと思っていたから。
増田くん、私のこと好きって言ってくれたでしょ?嬉しかったよ、でも理由を聞いて愕然とした。私のことちっとも分かってないのだもの。そこで私はある少女の物語を話そうと思う。
昔々あるところに一人の色白で可愛い少女がいました。本当に可愛いかったので周りはすぐ彼女に興味を持って声をかけました。でも、次第にみんなは彼女から離れます。なんででしょう。そう、彼女はとても根暗で人と接するのがとても苦手だったからです。すごくすごく大人しいその子は滅多に笑いません。人に感情を見せるが嫌だからです。ずっと無表情で、自分から声をかけることも出来なかったのでそんな彼女に周りが嫌気を差し、彼女から離れていきました。先生は言います。もっと明るくなって自分から積極的に声をかけろとその少女を非難します。でも、出来ないのです。彼女は大人しいから内気だからとてもじゃないけど自分から声をかけることなんて出来なかった。そんなある日、彼女の目にある女の子の姿が飛び込んできます。その子は太陽のように明るく周りからも好かれてる女の子です。あぁ、いつか私もあんなに明るく元気でみんなに好かれるような女の子になりたいと思いました。でもそれは無理です。彼女は大人しいから。そして月日が経ちその内気な少女も段々と成長していきます。果たしてその少女は今どんな風になっているのでしょうか。大人しいままか、それともみんなが想像も出来ないような変貌を遂げているのか、それは増田くんの想像にお任せします。
私はずっと憧れていた。明るい女の子に、みんなから好かれるような女の子に。だけど、心の奥底でずっと思っていたこともあるの。本当の私を、内気な私を受け入れて欲しかった。人と話すのは苦手だけど胸に情熱は秘めていた。ねぇ、積極的ではないけど私だって個性を持ってる、けどこの社会では、今のままの自分ではやっていけないと思った。大人しいというだけで男子からは苛められ、女子からは男に媚びてると思われ嫌われた。
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