イジワルな彼は私を溺愛しています
はあはあはあ

息を切らしながら、全力で走る。

もう、何がなんだか分からない。

どうして和海はいつも通りなの?!

どうして何も言わないの?!

悲しみを置き去りにするように走る。

「水沢っ!!」

その声ではっとして足を止めた。

私が手を掴んでいた宮沢君は私と同じように息を切らしていた。

「あ、ごめん」

ぱっとつかんでいた手を離した。

「そんな勢いよく離さなくても……。なあ、会長とあんなふうに」

「いいからっ!」

私は和海のことは考えたくなくて大声を出した。

「いいから、行こう。私あれが食べたい」

咄嗟に目にはいったクレープの看板を指して言った。

「……分かった。じゃあ、行こうか」

宮沢君はさりげなく私の手を握って歩いた。


「私はいちごクリームで。宮沢君は?」

「俺はベリー」

私の分のお金を払ってもらうのは胸が痛むからと宮沢君に言って自分でお金を払った。

「一口食べる?」

宮沢君がクレープを差し出してくる。

「え、いいよ」

「じゃあ、俺もーらい」

宮沢君は私が持っていたクレープをかじった。

「あ」

宮沢君は「これも美味い」と言ってもぐもぐしている。

私も自分のクレープを食べた。

正直美味しいかどうか分からない。

「水沢、俺ら間接キスした」

「え、あっ」

私は思わず自分が食べたクレープを見た。

バッチリ同じところを食べている。

意識してなかった。

「まだ、時間ある?」

宮沢君に言われてスマホを見ると17時になっていた。

そろそろ帰らないと夕飯がまに合わない。

でも、いいか。

帰りにレトルトのご飯を買っていけばだ大丈夫だ。

「ある」

「じゃあ、あそこで遊ばない?」

宮沢君が指したところはゲームセンターだ。

「いいよ、行こう」

私は最後の一口を無理やり口に押し込んで歩き出した。
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