ツンデレ黒王子のわんこ姫
翌年の4月。

「私、白木芽以と申します。大学を卒業して初めての職場でございます。慣れないことも多く、ご迷惑をお掛けすることも多いですが、何卒、御指導の程よろしくお願いいたします。」

芽以は、商品開発部の社員を前に他の新人2名に続いて挨拶の真っ最中であった。

芽以の挨拶が終わると、商品開発部部長の前田が

「みんなもこれからよろしくな。」

と、朝礼終了を告げ社員はそれぞれの席に戻っていった。

新人3名ならびに新人指導者3名はその場に残される。

「白木さんの指導者は黒田だ。後は黒田の指導に従うように。」

芽以は、目の前に立ちはだかる黒田健琉(25)を見上げた。

155cmの芽以にとって180cmの健琉は、ちょっとした壁のようだ。

"この人が黒田健琉さん。私の婚約者"

芽以と健琉が顔を合わせるのは、実は今日が初めてだった。

芽以は婚約を告げられた際、インターネットで社のホームページにアクセスし、健琉のことを検索してみたが、一般社員である健琉の情報は得られなかった。

"武士に二言はなし"

"相手がどんな人物かは会えば分かる"

と格言めいたこと言い切る父は、なんの情報も与えてくれなかった。

間違いなく芽以と健琉は今日が初対面だった。

「じゃあ、白木さんはこっちへ」

健琉は、芽以を自分の隣の席に案内する。

対面に二つ、それに健琉と芽以の机二つを合わせて一つの島となっており、健琉と芽以の背側は壁になっている。

前の座席とは、対面とはいえデスクトップパソコンや引き出しが所狭しと置かれているため、こちらの様子は見えないようになっていた。

健琉は、芽以に着席するよう促すと、

「白木さん」

と、芽以の耳にそっと口元を近づけて言った。

「あんた、親の言うこと聞いてノコノコ会社に入って、会ったこともない奴と婚約するとか馬鹿なの?」

芽以は言われたこともない暴言に、バッと顔をあげ健琉を見つめた。

茶色がかった髪に整った顔。爽やか好青年で王子さまのよう見えるこの人は、まさかの毒舌でした,,,。
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