ツンデレ黒王子のわんこ姫
「めんどくさいから婚約は保留にしておくけど、会社では絶対ばれないようにして。ちょっとでも俺の気に触ることしたら、ここからすぐに追い出して婚約も解消するから」

健琉は、芽以だけに聞こえるように囁くと、ゆっくりと顔を離した。

そして、何事もなかったかのように

「じゃ、白木さん。これ読んどいて。俺が戻るまでに質問内容を書き出しておくこと」

と、就業マニュアルという分厚い本を渡して部屋を出ていってしまった。


++++++++

"なんだよ、あいつ"

部署を出て、資料室に向かっていた健琉は、口元を押さえながら顔を赤らめてぐんぐんと歩いていた。

白木芽以。父親が勝手に決めた健琉の許嫁。

芽以との婚約を知らされたのは、つい先週のことだった。

「健琉、来週お前の部署にお前の許嫁が来るからよろしくな」

まるでお得意さんの接待を依頼するかのような軽いのりで爆弾を落とされた。

「許嫁、しかも同じ部署ってなんの嫌がらせだよ。」

「白木美術館に刀を見に行ったことがあるだろう?あそこの館長の祖先が、有名な藩主でね。たくさんの刀を所有されているんだ。」

"親父の刀好きがここにも影響してんのか"

健琉の父親は一度言い出したら聞かない。強引な手法で会社を拡大してきたことも知っている。

「武家と親族になれるなんて夢のようじゃないか」

それに,,,。

「白木さんの娘さんはとても可愛い大和撫子だ。おまえも気に入ると思うぞ。」

と、父はのんきに語った。

"どうせ来週会うから"

と釣書も準備していないらしい。

「武家の娘なんてどうせ見かけはゴリラかなんかだろ。」

健琉は、そんな暴言を吐いて社長室を出た。

"反対しても無駄な労力を使うだけ。会社に入ってきたら、あっちから断らせるように仕向ければいい"

そう思って覚悟していたのに,,,。

"か、可愛い"

ゴリラのようにごつい麿呂顔を想像していたのに

白木芽以は、人形のように白くて、髪は内巻きでふわふわ。

しかし、凛とした佇まいはまさしく"大和撫子"だった。

華奢で小柄な芽以が、大きくて色素の薄い目を見開いて健琉を見上げる様子は、まるで飼い犬のポメラニアンのようだった。

父の言うように、外見だけは健琉のストライクゾーンど真ん中だ。

"いや、案外、性格ブスかも知れないし、欲深いかも"

健琉は、今まで言い寄ってきていた女達のせいで、女性不振になっており、簡単に芽以を信用することができないでいる。

資料室に着いて、お目当ての書類を見つけると

"いずれにしろ、しばらく様子見だな"

とため息をついた。

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