ツンデレ黒王子のわんこ姫
現在、23時。こんなに遅くまで起きていたことはないし、外に出かけていたこともない。

"今日は初めてづくしで驚くことばかりだったけど楽しかったな"

芽以は隣で車を運転する健琉を見ながら、今日一日を振り返っていた。

"健琉さんは物知りだし、優しいし完璧な旦那様かも"

これが恋愛感情かと聞かれても、芽以には恋愛の経験がないのでわからないが、不思議と健琉に何を言われても、何をされても腹が立たなかった。

"きっと相性がいいのね"

まだ男性を疑うことを知らない芽以は、ちょっと優しくされただけで、目の前の婚約者を手放しで信用し始めていた。

24時になる15分前。

健琉の車は芽以の実家に無事に到着した。

「まるでシンデレラみたいですね。明日になったら全部夢だったとかそういうオチだったら嫌だな」

夢の国から帰って来たわんこ姫は、少し寂しそうに笑った。

「写真」

健琉はまだ芽以の手の中にある携帯を奪って言った。

「俺のに転送するから」

健琉は芽以と自分のスマホのSNSソフトを起動すると、パーコード認証でお友だち登録をした。

登録が終わると、続けて今日の写真を健琉のスマホに転送する。

最後にそれぞれの電話番号を登録して、スマホを芽以に返した。

「ほら、行くぞ。ご両親に挨拶する」

芽以が助手席から降りると、手を引いて玄関まで移動する。

芽以が玄関の鍵を開けると、待っていた白木家側近の真田が出迎えた。

「お帰りなさいませ。お嬢様、黒田様。旦那様と奥様はすでにお休みになられており、黒田様にお礼を述べておくように私が仰せつかっております。」

仰々しく挨拶をする真田は、いつもなら既に帰宅している時間だが、芽以の外出に合わせて時間外となったらしい。

「わざわざお嬢様を送って頂きありがとうございました。」

真田が丁寧にお礼を述べた。

「いえ、遅くまで芽以さんを連れ回してしまいました。婚礼前なのに」

「いえ、旦那様も行き先が行き先ですから、何も心配されておりませんでしたよ。何せ、黒田様は許婚でいらっしゃるから何も問題はございません。」

健琉は"皆さんのお茶受けに"と、遊園地のワールドバザールで購入したお菓子を渡した。

「それでは、僕は失礼致します。芽以さん、また月曜日に」

健琉を見送ろうと玄関先に出てきた芽以の耳元で

「弁当、忘れんなよ」

と呟いた健琉の声に、芽以は再びときめいて胸をキュンとさせるのだった。

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