ツンデレ黒王子のわんこ姫
その日の昼休み、綺麗な花が咲く会社の中庭で、

芽以は、同期で同部署の"中野遥香"と一緒にお弁当を広げていた。

芽以が、中野と二人で昼食に出かける様子を見送った健琉は、そこに沢城優太がいないことを確認し、満足気に席を立った。

腐女子軍団の芽以への敵意をそらすべく、営業部の前で待つ葵生と食堂に行くために。

中庭に到着して数分もしないうちに、芽以と遥香は、いつのまにか数人の男性社員に囲まれていた。

「わあ、凄いお弁当だね。白木さん」

「黒田と里中は、こんな弁当を毎日食べさせてもらってたのか。羨ましいな、僕も一つもらっていい?」

加減を知らない豪華絢爛な芽以の手作りお弁当は、本日も三段重ねのお重入り。

「お粗末ですが、よろしければどうぞ」

健琉と葵生の為に作ったものではあるが、捨てるには忍びない。

「芽以ちゃんの手作り料理、私も今日初めて食べたんですけど凄く美味しいですよね。黒田さん達が社食に行ってくれてラッキーでした」

背が高くて清楚な美人である遥香を狙う男性も多い。

そんな遥香が、可憐で儚げな大和撫子と評される芽以と二人で過ごしているのを男性社員たちが見逃すはずはない。

会社での二人の仲睦まじい様子は、入社以来、ちょっとした評判になっていた。

近すぎる二人の距離は、女子高における"お姉さまと妹"といった"百合"的な関係を思い浮かばせ、一部の男性の萌えの対象ともなっていた。

今二人に話しかけているのは、営業部の井上と牛島。

二人とも爽やか青年といった感じで、女子社員からは評判がいい。

その他、経理部の衞藤、岡島という明らかにオタクといえそうな脂ぎった二人も、芽以と遥香を少し遠目に眺めてニヤついている。

そこへ走ってきた沢城が乱入した。

「あー、芽以ちゃん、まだお弁当残ってる?課長につかまっちゃってさー。井上さん、ダメですよ。全部食べちゃ!」

沢城はすかさず芽以の隣に座り、お弁当の箱を抱え込んだ。

「やっと芽以ちゃんが黒田さん達から解放されたんですからね。僕も出遅れませんよ。」

「慌てなくてもなくならないよ。ゆう,,,、えっと沢城くん」

芽以が、戸惑いながら笑って言った。

"沢城くんとは近づきすぎないようにしないと。健琉さんに叱られちゃう"

芽以の心配をよそに

「優太でいいよー」

と優太は、体をすり寄せてくる。

芽以以外の面子はそれぞれの立場で苦笑した。

「白木さん、お弁当のお礼に今度俺たちと飲みにいかない?もちろん中野さんも一緒に」

営業部の牛島が言った。

「私、門限があって,,,」

「とりあえず、明後日、営業と開発部・経理合同の新入社員歓迎会があるだろ?その時の隣の席を予約ってことで。よろしくよろしく」

「井上さんたちズルいー。僕も混ぜてー」

優太は頬を膨らませるが、それを無視して、

井上と牛島は、芽以と遥香の返事を聞かずに、手を上げてそそくさと去っていってしまった。

そんな中、

「芽以たんと遥香たんの関係を邪魔させない,,,!」

その様子を黙って見ていた、衞藤と岡島がギリギリと歯軋りをして呟いた

芽以を取り巻く不穏な空気に、残された三人は気づいていなかった。

< 26 / 88 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop