ツンデレ黒王子のわんこ姫
社長室に入ると、そこには総司しかいなかった。

秘書の矢嶋は秘書室にいるらしく、どうやらプライベートな話らしい。

「随分面白いことになっているじゃないか」

そう言った総司の目には非難の意がこもっているように見える。

「芽以さんを一週間お前の檻の中に閉じ込めていたかと思えば、今度は芽以さんを狼の群れの中に野放しにしている。一体、お前は彼女をどうしたいのかな?」

総司は、ソファに座った前屈みの状態で両手を組み、じっと健琉を見つめた。

健琉は、総司の対面に据えてある接客用のソファに腰かけた。

「芽以さんのお父上が、芽以さんをここに就職させ、婚約までしたのに "結婚は半年後"と言った意味がお前にはわかるか?」

総司は真剣な顔で言った。

「お前を試してるんだよ、芽以さんの夫にふさわしいかどうか」

健琉は驚いて総司を見つめ返した。

「お見合いのとき、剣士さんに婚約者であることを結婚式までは隠しておいてほしいと頼まれただろう?」

「ああ」

「男性への免疫がない芽以さんを社会に放ったあと、健琉、お前がどうやって彼女を守るのかを剣士さんは見ていらっしゃる。お眼鏡に叶わない場合は、婚約解消も辞さないはずた」


初め、健琉は、当事者の意見を無視したこの婚約に憤りを覚え、いつでも婚約解消できるように"この関係を隠し通す"ことを芽以に命じた。

後日、お見合いの席で、芽以の父・剣士からも"結婚までは婚約を公表しない"よう約束させられた。

結婚に疑問を持っていた健琉にとっても好都合であったため、そのときはこの申し出を快諾した。

しかし、芽以に好意を持ってしまった今では、厄介極まりない約束であることがわかる。

束縛しようにも、できる根拠が与えられていないのだ。

結婚までの半年間、芽以を束縛しないで、狼と敵の群れから傷つけずに守り通すことができるのか?

"俺は芽以の父親に試されているのか?守りきることができる奴なら、沢城でも、他の男でもいいってことか?"

健琉は焦りを感じていた。

剣士に嫌われてはいないとは思う。それはお見合いやデートが許可されたことからも明らかだ。

しかし、このまま俺様路線で芽以を拘束するだけでは、芽以を傷つけてしまい、剣士に "夫として不適切"の烙印を押されてしまうかもしれない。

「ご両親がガードを緩めた今、芽以さんを狙う輩も、攻撃してくる女性もこれから増えるだろう。お前は今後どうやって彼女を守るつもりだ?よく考えて行動するんだな」

健琉の父はニヤリと笑って告げた。

「もっとも,,,。私は手助けできないからそのつもりで」

総司は、婚約をごり押ししてきた父親とは思えぬ態度と言動だ。

"傍観者を気取る気かよ"

結納が済んで安心し、半ばあぐらをかいて余裕をぶっこいていた健琉にとって、新たな爆弾が投下された瞬間であった。

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