ツンデレ黒王子のわんこ姫
中庭に集まった社員と同期二人のお陰で重箱は空になった。

"お弁当が無駄にならなくて良かった。明日からは自分の分だけを作ってこよう"

芽以がそう決意して部署に戻ると、健琉はすでに自席に着いていた。

「遅かったな。中野さんはどうした?」

「コンビニによってから戻るそうです」

健琉は少し機嫌が悪そうに見えた。

「弁当、余ったんじゃないのか?」

「いえ、たまたま居合わせた営業の方とか、経理の方にも食べていただきましたから」

"たまたまなわけないだろ"

健琉はムッとしながらも芽以の方に体を向けている。

「後から、えっと,,,沢城さんも来ましたし」

女性社員の噂話が聞こえて知っていたとはいえ、本人の口からリアルな状況を聞くと余計に腹が立つ。

「他の部署に知り合いがいたのか?それとも理由つけて誘われた?」

健琉は必死で怒りの感情を抑え込みながら、質問を続ける。

「営業部の井上さんと牛島さんという方に、明日の新入社員歓迎会で中野さんを交えてお話ししようと言われました」

「はぁ?」

思わず、感情をあらわにした健琉に芽以がビクッとする。

「あ、ああ、明日は新入社員歓迎会だっけ、お前、酒飲めるの?」

「口をつける程度しか飲んだことがないのでわからないです。」

健琉は内心嫉妬で溢れ返り、無防備に相手を受け入れる芽以を叱りたくなるのをぐっと堪えた。

芽以がこんな性格なのは芽以自身のせいではなく、周囲の人間と環境のせいだ。何しろ、芽以の性格の良さに健琉は惹かれたのだから。

これからは会社でも、明日の飲み会も気が抜けない。

束縛せずに芽以を守る方法,,,。

そんなものがあるんだろうかと、健琉は途方にくれた。
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