甘い運命

1-38

──案の定、私は小学校の廊下にいた。

委員会が長引いて、教室に帰るのが遅くなった。
友達はもう帰っているだろう。
足早に自分の教室に向かう。

カラカラ、と引き戸を開けた先に、クラスの男の子3人がいた。

それぞれ女子から人気のある男の子たちだった。

「おー、橋本、終わり?」

背の高い男の子、ユタカが声をかけてきた。

「うん、先生の話長くって。疲れちゃったよ。」

本当に疲れた~、という風に溜め息をつくと、その隣にいたアキラがからかうように口を出してきた。

「橋本、今の顔めっちゃブス!
お前ブスなんだから、せめてニコニコしとけよ!」

コイツの『ブス弄り』は、いつものことだ。
もう慣れた。

「…ハイハイ。もう帰るわ、また明日ー。」

ひらひらと手を振って自分のロッカーに行き、ランドセルを取り出すと、じゃあ、と手を上げて教室を出た。

後ろ手にドアを閉めて5メートルほど歩いたところで、忘れ物に気がついた。

何の気なしに戻ると、3人の話し声がした。

「……橋本ってブスじゃん?そう思うだろ?」

アキラの声だ。ハイハイ、わかってますって。

「だから、そういうのやめとけって。」

ユタカの声だ。すかさずもう一人いた、トオルが口を挟む。

「なにー?ユタカまさか、あんなブスが好きなわけ?」

「は?あり得ねえし。好きなわけないだろ。」

即答で、ユタカが返す。

「「だよなー、あんなブス!」」

アキラとトオルの声が重なって、あとは笑い声。

私は足音を忍ばせて、その場を去った。


靴を履き替え、近くの公園まで何とか走った。

涙は、土管のトンネルの所まで我慢した。


──私は、ユタカが好きだった。

そうか、優しいユタカにとっても、私はブスなんだ。
そう思うと、次から次へと涙が溢れた。

暫く泣いて、とにかくユタカを好きだった気持ちは捨てよう、明日はいつも通りでいよう、と決心した。

小学生にどこまでできたかわからないが、多分成功していた。
アキラとトオルはいつも通り私を弄り、ユタカは……私を避けた。

おそらく、からかわれたから。今なら、それがわかる。
でも、その当時の私は、自分の気持ちがバレて、避けられたのだと思った。

すごくすごく、悲しかった。
あんなことを言われても、せめていいクラスメイトでいたかった。

──そうか、私は恋をしてはいけないのか。
私が好きになると、誰かに嫌な思いをさせるのか。

そう思った私は、男の子を好きになるのはやめようと決心した。




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