甘い運命

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何か思い付いたらしく、ホクホクしている修一さんは、明日会社だからとさっさと帰ってしまった。

私も病み上がりだし、ゆっくりできたけど、何だか腑に落ちない感じがしたまま、週が開けた。

月曜日からの出勤は問題なかったが、泣きすぎの顔は隠せず。

山崎くんに何事かと聞かれたけど、週末風邪でダウンしていたと言ったら、何とか納得してくれた。

そして、水曜日。引き継ぎの日だ。

夕方、修一さんの会社に着くと、いつもの会議室ではなく、ロビーのソファに案内された。

ぼちぼち定時になる時間なので、人通りが多い。

担当が外れたことを周知するには、絶好の場所だ。
出来たらロビーで引き継ぎの紹介をしたかった私は、この偶然に感謝した。

「─三上さん、こちら新しく担当させていただきます、山崎です。どうぞよろしくお願いします。」

「山崎です。橋本には及ばないところが多々あると思いますが、全力で頑張りますので、よろしくお願いします!」

名刺を渡しながら、元気よく山崎くんが挨拶する。
お陰で注目の的だ。
私は内心、ほっとする。
これで、変な動きは収まるだろう。

「三上です。橋本さんから、有能な後輩だと伺ってます。
こちらこそ、よろしくお願いします。」

クールな表情に、少しだけ笑みを浮かべて、三上さんが挨拶を返した。

そして、おもむろに私の方を向く。

「じゃ、これで、橋本さんはうちの担当を外れたんですね?」

「はい、今からこちらの山崎にご用命下さい。」

「わかりました。──時に山崎さん。今、何時ですか?」

突然の質問に、山崎くんが目をぱちくりさせる。
慌てて腕時計を見て、17時36分ですね、と答えた。
私もきょとんとして修一さんを見ていた。
どうしたんだ?修一さん?

「じゃ、今は定時後ですね、お互いに。」

そう言うと、修一さんは、極上の笑みを浮かべて、私の側でポケットから何かを出しながらひざまづいた。
そして、ロビー中に聞こえるような、大きくはないけどはっきりした声で、告げた。

「都、もう担当じゃないから言っていいよね。
俺と結婚して。」

修一さんの手の中には、黒いベルベットの小さな箱。
開けられた中には、大きなダイヤの側に、小さなダイヤが散りばめられている指輪が鎮座していた。

修一さんは、呆気に取られて固まっている私の左手を取り、薬指に指輪を通した。
そしてそのまま手を口元に持っていき、薬指の指輪にキスをした。


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