毒林檎がなくても
「お母さまだなんてたくさん呼んでしまったけれど、いつもはね、そうお呼びしてはいけないの。定められた呼び名があるのよ」


美しい黒髪をほつれさせたまま、白雪姫は足元に視線を落としました。


「寂しいけれど、あの方がそうお命じになったのだもの、御前ではそうお呼びする他ないわ。でも、本当はずっと、お母さまとお呼びしてみたかったの。……秘密よ?」


お嬢さん、とお妃さまの口からかすれた声がこぼれました。


「ごめんなさいね、おばあさん。変なお話を長々聞かせてしまって。お付き合いくださってありがとう」


お疲れでしょう、なんてお妃さまを気遣います。


「それで——大変遠回りをしてしまったのだけれど、林檎をもう一ついただけないかしら」


お代はきちんとお支払いするけれど、駄目かしら。


おそるおそる伺うように王妃さまを見つめる白雪姫に、


「……いいや、お代はいらないよ」


魔女はばさりとフードを下ろして、醜い容姿に見せかける魔法を、ゆっくり解きました。
< 14 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop