男装したら数日でバレて、国王陛下に溺愛されています
第一章 家族のための男装
朝の陽差しが娘の背中の中頃までの少し癖のあるシルバーブロンドの髪に降り注いでいる。

その見事な髪の持ち主はミシェル・ブロンダン。齢十八歳の整った顔立ちの美少女だ。彼女が着ているのは首までしっかりあるシンプルな綿モスリンの深緑色の足首までのドレスで、細いウエストを同じ生地のリボンで後ろに結ばれている。

この国の若い町娘はこういった格好が主流である。


「今、エサをあげるからね」

 
彼女が声をかけたのは、柵の中にいる四方八方に散らばる五羽のニワトリ。
 
ベルナディス国の王城がある町から、徒歩一時間ほどのところにある村にブロンダン家は昔から住んでいた。
 
ブロンダン家の男たちは、代々この国ベルナディス国王の身の回りの世話をする侍従をしている。

ごく普通の村人だったミシェルの先祖が、従者とはぐれて道に迷っていた国王を家に招き入れ、手厚く世話をしたところから、たいそう気に入られ侍従になったと言われている。

本来ならば侍従になるには貴族でなくてはならなかったところを、国王は「お前のようなものが側で世話をしてほしい」と側近たちの反対を押し切ったと伝えられている。
 
現在の国王クロード・ヴィクトル・ベルナディス。年齢は二十五歳。

去年、前国王が病気で崩御して、後を継いだ。
 
亡くなった国王にはもうひとり、身分の低い妃を母にもつ子息パスカル・ベルナディスがいる。パスカルはクロードより一年早く生まれており、クロードにとっては異母兄だ。その為、正妃の子供クロードは王位継承第一位、パスカルは王位継承第二位。
 
生まれた時から同じ教育を受けてきたが、賢く神童と言われていたのはクロードだった。
 
国王クロードの侍従頭として身の回りの世話をしているのはミシェルの祖父ロドルフ。すでに引退の時期が近づいているロドルフだ。

ミシェルの父親は彼女が幼い頃に病気で亡くなり、現在は母のマリアンヌと兄フランツと三人で住んでいる。


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