今夜、シンデレラを奪いに
私の身に影響があるってどういうこと?



聞きたいけどこれ以上説明してくれる様子もないし、私は完全に口を塞がれている。


無理矢理声を出すことはできると思うけど、さっきの切実な声音を思い出してやめた。


もしこの人が私に何かするのなら、私が寝てる間にできただろう。抵抗するのをやめて体から力を抜く。




会話は今も続いている。殆どくぐもって聞き取れないけど、契約に関することみたいだ。


「……社も、エヴァーグリーンと取引できるとなれば尻尾を振って喜ぶでしょう」


「相手は名もない中小企業だからな、順当だよ」


乾いた笑い声とともに、その人たちはオフィスから出ていった。廊下に足音が響く。こんな暗い中で打ち合わせしなきゃならないなんて、何の話だったんだろう?


足音が遠ざかると口から手を離してくれたので、真っ先に気になっている疑問を口にする。


「あなたは誰? ここから出ても良い……ですか?」


けれど、その返事はない。真っ暗闇と静寂が支配する中、ほんの少しだけ身動きする気配がした。


「随分と間抜けだな。俺が変な気を起こしたらどうするとか考えないのか?」


「え?」


「もう助けを呼ぶこともできないのに。

暗い密室で男と二人、どういう情況かわかっているか?」


顔に手が触れた。私には暗闇にしか見えないけど、この人には見えてるのだろうか。まるで、頬だとわかって触れるみたいな指の感触。


「離して!」


バシッと手を振り払って立ち上がり、声から遠ざかろうと後退りする。鞄はどこだろう。せめて携帯が手元にあれば。

ライトで多少は明るくなるし、場合によっては警察に連絡だって……


「危な……っ」


手を伸ばしたら何かが机からバサバサと落ちる音がして、足元に何かぶつかった。予想外の障害物にバランスを崩し、転ぶと思った瞬間に背中を抱き止められた。


「見えてないのに暴れるな、怪我するだろ」


腕に引かれるように床に腰を降ろすと手足が震えた。



「脅して悪かった。さっきはあなたのお人好しに救われた。

……にしても、自分が非力な若い女だって自覚はあるのか?無人のオフィスで無防備に寝るだなんて、襲われても文句の言えない状況だぞ」
< 5 / 125 >

この作品をシェア

pagetop