今夜、シンデレラを奪いに
昔ながらの大衆的なお店には、擦りきれた畳にペラペラの小さな座蒲団が敷かれている。壁にはすっかり変色した芸能人のサイン色紙。

真嶋は店内のすべてを不思議そうに観察していた。


「生二つとめんたい餅チーズもんじゃひとつ!」


やがて小さなボウルに山盛りのもんじゃが運ばれて、その中身の一番上には明太子が一腹まるっと乗っている。


「これは明らかに調理が終わっていない状態ですよね?」


「作るのも楽しみのひとつだから、これでいいの」


鉄板に油を馴染ませて、まずは具材だけを切り混ぜながら炒める。それをドーナツ状に整えて土手を作り、真ん中にざばっと汁を流し入れた。程よく熱が通ったところで全体を混ぜ合わせる。


「およそ食品とは言い難い形状ですが……」


不審げに眉を寄せて、手元にあるヘラともんじゃ焼きを交互に見比べている。只でさえ店内で浮いている真嶋がそうしているとさらに目立つ。


「ふふ。そういうリアクションしてると、外国から来た観光客と間違われるよ。

後はそれですくってそのまま食べればオッケーだから」


「鉄板から直に口に?」と嫌そうにしてるので、一口目は有無を言わさずに真嶋の口に放り込む。


口からヘラを引き抜くと困ったように眉根を寄せて横を向いた。


「美味しいでしょ」


「……熱いです」


真嶋は素直に美味しいと言わないかわりに、パティシエのような繊細さでもんじゃ焼きのヘラを操りぱくぱくと口に運ぶ。


「それで……首尾はどうだったんですか?」


お見合いの成果について聞かれたので、また会おうという段取りになっていると伝える。呆れられそうだから鳩のフンに関する事は黙っておいた。


「上出来ですね。次回も同伴の上、粗相のないようにサポートします。」
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