今夜、シンデレラを奪いに
唇が触れていたのはほんの僅かの間だった。一瞬の間だけ身動きが止まっていたけど、すぐに突き放すように体ごと離される。


「………ん。

やっぱり、あなた真嶋だよね?」



「っ…………

ケモノですか。こんな、やり方…………」




少し怒った声は、笑ってしまうくらい懐かしい真嶋の声だ。二週間しか経っていないとは思えないくらい、久しぶりに声を聞いた気がする。



「だって見えないんだもん、しょうがないでしょ。」


「しょうがない、じゃないですよ。

最初から待ち構えてたなら、俺にライトを当てれば済む話じゃないですか。」


「でも真っ暗闇に隠れてるのに、勝手にライトを当てるのは何かルール違反な気がしたんだよね。」


「それなら勝手にキスをするのはルール違反じゃないんですか?」


「あははっ。その言葉は真嶋にそっくり返すわ。」


「………」


真嶋の小さなため息が聞こえてくる。


「さっきは可愛らしく『あなたを詮索したりしないから』とか言ってませんでしたっけ………?」


「それは嘘も方便ってヤツよ。

真嶋が私にたくさん嘘をついたみたいに、私だってたまには嘘くらいつくんだから。

真嶋が企画営業課の新人、なんて大嘘でしょ?さっきから何を探してるの?」


「一連の処分を見聞きしてるなら、俺が不正に関与していたと見るのが普通でしょう。俺に協力すれば矢野さんも関係者として処罰を受けますよ?」


「私はこれでもあんたの上司なの。真嶋が不正なんかするわけないことくらいわかってる。

自尊心の塊みたいな性格してるくせに、不正ができるわけないでしょ。」


反論の意を込めて隠し持っていたライトを真嶋に向けると、眩しそうに顔を逸らした。

そのまま、ライトを壁際のキャビネットに向ける。


「真嶋が探してそうなものはあの中だよ。部長の古いノートパソコンとか。ファイルサーバのバックアップとかね。」


「……どうしてそんなものの場所を知ってるんですか?」


「だって、真嶋の調査はまだ終わってない気がしたから。ついでに集めておいただけ。」
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