優しい音を奏でて…


「奏、その頃、安藤から告白されなかった?」

「………そんな事もあった。」

「断る時に『他に好きな人がいる』って
言ったのを河合が聞いて、奏に直接確認した
って言ってた。
奏が好きなのは俺じゃないか?って。
そしたら、奏は『大丈夫。違うよ。』って
答えたって。」

「それはっ!」

私は言葉に詰まった。

「それは…
恭子には言えなかったの。
今更、ほんとはゆうくんが好きですなんて。
………だから、嘘をついたの。」

「そっか。
ちゃんと奏に直接聞けば良かったんだな。
俺も告白して振られる勇気がなかったから。」

「ううん。
元はと言えば、ずっと自分に嘘をついて
恭子の応援する振りをしてた私が悪いの。
………ごめんね。」

ゆうくんは、そのまま私をもう一度抱きしめた。

「奏、俺と付き合おう?
絶対に幸せにするから。
絶対、裏切らないと誓うから。」

私は、黙って頷いた。

ゆうくんは、腕を緩めると、今度は肩を抱いて、そっと口づけた。

何度も何度も口づけて、私がゆうくんの背中に手を回すと、口づけは深く深くなっていった。


「奏、今日はこのまま奏といたい。
このまま奏を俺のものにしていい?」

耳元でゆうくんが囁いた。

私は、ゆうくんを見つめて微笑んで言った。

「ダメ! 初詣、行くの!」

ゆうくんは一瞬目を見開いて、それから、声を上げて笑った。

「かなで〜、この場面でそれはないでしょ?」

「初詣、約束したよね?」

「はい。」

ゆうくんは、しょんぼりして時計を見た。

時刻は11時30分。

「除夜の鐘、突きに行かない?」

と私が言うと、

「しょうがないな。」

とゆうくんも笑った。



だって、そんな急に先に進むのは、やっぱり不安なんだもん。



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