優しい音を奏でて…

サァァァァ…

何の音?

水音?

雨?

目を覚ますと、辺りは暗闇だった。

えっと、携帯、携帯……

灯りを求めて枕元の携帯を探したが、手に触れたのは普段とは違うヘッドボード。

えっ?

あぁ!
私、ゆうくんと………

じゃあ、さっきの水音は雨じゃなくてシャワー?


─── ガチャ

ドアが開いて、隣室の灯りと共に上半身裸のまま髪を拭くゆうくんが入ってきた。

「奏、起きた?」

「ゆうくん………
今、何時?」

「9時過ぎだよ。
シャワー浴びる?」

「うん。」

私は起きようとして、自分が一糸纏わぬ姿である事に気付き、慌てて布団の中に潜り直した。

「ははっ。今更隠さなくても……… 」

私が無言でゆうくんを睨むと、ゆうくんはにっこり笑いながら近づいて、そっと口づけた。

「気になるなら、俺は向こうにいるから、
着替えて出ておいで。」

そう言って、部屋の灯りをつけると、隣の部屋へ出て行った。

ふぅぅぅっ………

私は深呼吸をしてから、気をとりなおして、ベッドサイドに散らばる服をかき集めて身に着けた。

リビングに行くと、ゆうくんはキッチンに立っていた。

「簡単に夕飯作っとくから、シャワー浴びて
おいで。」

「うん。」

脱衣所に行くと、綺麗に畳まれたバスタオルが用意してあった。

こんな些細な事に嬉しくなり、私はご機嫌でシャワーを浴びて、ゆうくんの元へ戻った。

「あ、ドライヤー出してなかったね。」

バスタオルで髪を拭く私を見て、ゆうくんがドライヤーを持ってきてくれた。

ゆうくんは、ダイニングの椅子を部屋の真ん中に置くと、

「座って。」

と背もたれをトントンと叩いた。

私がそこに座ると、ゆうくんはドライヤーで髪を乾かしてくれる。

髪を触ってもらうのは、とても気持ちいい。

うっとりしながら、腰まである長い髪を乾かしてもらい、また幸せな気分に浸った。


「ご飯食べよ。」

ドライヤーを片付けながら、ゆうくんが言った。

「うん。」


ゆうくんが焼いてくれたポークソテーを食べながら、私は、幸せ過ぎて、また不安がよぎった。

こんな幸せが、永遠に続けばいいのに…


と思っていたら、食後、私はまたゆうくんにベッドルームへと誘拐されてしまった。


・:*:・:・:・:*:・

1月4日(金)

6時。
外ははまだ暗いが、ほんのりついた灯りが、ゆうくんちである事を教えてくれた。

今日から仕事始め。

帰って、着替えなきゃ。

ゆうくんに背を向けて、ベッドから、そっと抜け出そうとすると、後ろからゆうくんに、ぎゅっと抱きしめられた。

「ゆうくん?」

「奏、おはよう。」

「おはよ。」

ゆうくんは、それ以上動く気配がない。

「ゆうくん?
今日から、仕事でしょ?」

「ヤダ。」

「ぷっ」

ヤダって……

子供みたいな反応に思わず、笑ってしまった。

「ゆうくん、離して。
これじゃ、ゆうくんの顔も見れない。」

そう言うと、ずっとゆうくんの腕が緩んだ。

私は、ゆうくんの方に向き直ると、ゆうくんが私を見て言った。

「ずっと、こうしてたい。」

「うん。」

私はゆうくんの胸に顔を埋めて、ゆうくんをぎゅっと抱きしめた。

「でも、仕事はいかなきゃ。
1日がんばったら、明日、休みでしょ?」

「あーぁ。
仕方ないなぁ。」

そう言うと、ようやくゆうくんは、私を解放してくれた。

「奏。
先、シャワー浴びて来て。」

「ゆうくん、先でいいよ。
ゆうくんの方が出勤時刻が早いんだから。」

「じゃあ、一緒に。」

「ダメ!」

「くくくっ」

2人で笑う。

とっても幸せ。



そんな事をしていたから、私たちは遅刻ギリギリで慌てて出勤した。



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