ダドリー夫妻の朝と夜
 アーサーが席を立つと、エミリアが寄ってきた。

 先程より輪郭がぼやける中で、長いストロベリー・ブロンドが跳ねるさまは、初めと同じく映った。

 だから、エミリアを見初めて以来、これを目で追ってしまうのかと腑に落ちる思いである。

「もうお出かけになりますの?」

「ああ」

 エミリアは、真っ直ぐにアーサーを見つめていた。

 これで良い。

 エミリアの美しさを大まかにしか見られないことは残念であるが、妻に不快な思いをさせたくはない。

 アーサーは、妻の前で眼鏡をかけることを己に禁じた。

 眼鏡をかけたときには劣るが、妻を異変に気づけないほど悪い視力ではない。

「やはり、熱でもあるのではないか?」

「いいえ、アーサー様」

 アーサーは構わず、侍女を呼んだ。

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