ライアー
深夜12時

ぼろぼろになった体でようやく家にたどり着いた。


どうしても今日がいいと言ったクライアント。


さも大事な話かと思いきや、ただ飲み相手が欲しかっただけらしい。


体はべたべた触ってくるし、距離は近いし。俺をホストかなんかと勘違いしてそう。


やっと解放されると思ったら二軒目のお誘い。


このまま体まで奪われるんじゃねーかって純情な少女みたいなこと考えたりして。


なんとか酔わせてタクシーに乗せて帰したけど、毎回あのクライアントからの熱視線をどうかわそうか、悩んでる。契約がある以上無下にはできねーし。





女一代で築き上げた一大企業。世界にまで手を広げ、従業員数もどんどん増加させている、この不況な世の中で珍しく成績が右上がりの乗りに乗ってる会社。


間違いなく俺の取引先の中で一番の相手だし、会社にとっても切らせたらまずい客。本来であれば三十手前の若造が話せる相手ではない。




ただ、彼女が、島崎さんが俺を指名してくれた。

外見が理由だろうけど、この幸運をみすみす逃すことはできない。

実力重視を掲げるこの会社に入ったけど、努力しても届かないところがあることは知っている。

社内の奴らに軽蔑されても汚いと言われようが、俺は利用できるものは何でもしてやる。



ただ、俺があっちへこっちへ走り回ってかき集めてきた契約よりも、

島崎さんの愚痴を聞き優しくなだめて、食事をしたほうが何十倍も下手すら何百倍もの金が動くと思ったらやるせない気持ちになる。


普通のサラリーマンにはもったいないほどの馬鹿でっかい高層マンションに住めるのも彼女の金のおかげかと思ったら吐き気がする。



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