ライアー
いつの間にかポツリポツリと振り出してきた雨は次第に本降りになっていった。

ひどくならねぇうちに帰りてぇと思って空を見上げると
その視線に気づいたのか


帰りますね、彼女はつぶやくとクルリと背を向けて歩き始めた。肩で大きく息をついた後、思い切って雨の中を飛び出そうとするから思わず呼び止めてしまった。


「おい。お前傘持ってねぇのか?」

手に抱えている小さいバッグじゃ折り畳み傘なんて入る余地はないのは分かっててもつい聞いてしまう。

「………はい。でも大丈夫です。そんなひどくもないですし。」

は?大丈夫なわけないだろう。たとえ雨が強くなくてもこの寒空の中濡れたんじゃあ風邪をひくのは火を見るより明らかだ。


「これ使って帰れ。返さなくていいから。」

カバンの中から傘を出して渡すが、
彼女は首を横に振るばかりで一向に受け取ろうとしない。


「ほんと大丈夫ですから。私こう見えても体丈夫な方なんで」

気弱そうに見えて変なところで強情なやつだ。


「いいから。ここ会社の前だし雨の中女の子帰らせられるわけないだろ。
まして、二人で傘なんてさしたらどんな噂広まるかわかりゃしない。」

つくづく俺はクズな男だ。どこまで彼女を傷つければ気が済むのか。




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