ライアー
「なんで、いんの?」

ビルの自動ドアを通り抜けると、何を表してるのかよく分からないモニュメントの側に立っていた彼女。「紗良ちゃん」

俺を見つけると、走りよってくるなり、はぁー無事でよかったです。ってホッとした顔して。

俺に何か温かい言葉でもかけてもらえるとでも思ってたのか、そう一言そう吐き捨てると、一瞬アホみたいな顔になってから、ひどく傷ついた顔をした。

「な、なんでって。あの、連絡がないから、心配して、」

あーなるほどね。理解した。彼女は拒絶された経験がないんだ。自分が求めたものは手に入るし、自分がしたことは他人を喜ばせる、ずっとそういう人生だったんだろう。体に無意識レベルで刷り込まれてるにちがいない。彼女に悪意はないのは分かってるし、むしろ善意からだと思うけれどこのイラつきは止められない。

「こういうの迷惑だから。二度としないで。やってることストーカーと一緒だから」
必要以上に厳しめな口調で言うと、今度は大きな目に涙を溜めて、

ス、ストーカー

しばらく絶句したあとに慌てて弁解を始めた。

「そんなつもりなんてなかったんです。
ほ、んとうに心配してただけで。すみません。」

寒さで真っ赤にした両手を握りしめてる様子でさえ、まるで向こうが被害者みたいな雰囲気を醸し出してくるからイライラする。

「君に心配される義理なんてあったっけ。少し図々しいんじゃない?」

イラつきが高まっていたせいか、言うつもりがなかった言葉まで口から飛び出した。

「そうですよね。ほんとにすみませんでした。」

< 26 / 27 >

この作品をシェア

pagetop