緋色の勇者、暁の聖女
 グラファイトと再会できたのは、その翌日の朝だった。

 ミュールさんが用意してくれた朝食の席に彼は現れた。グラファイトは変わらず満面の笑みで僕たちとの再会を喜び、仰々しい感謝の言葉を並べ立ててくれた。

 そんな彼の言葉を少し空々しく感じてしまったのは、僕が昨夜ジャンさんに会ったからかもしれない。


 ――――俺が世界を変える。


 ジャンさんのその言葉が、まだ僕の耳に強く残っていたから。

 それに、日の光を浴びる事なく生活しているあの地下の街の人たちを思い出して、胸がきゅうっと痛くなる。

 後でクレールから聞いたんだけど、あの街の存在はこの街の誰も知らないらしい。

 だからあんな裏通りに入り口が隠されていたんだ。同じ街に住むことを許されなかった人たちが、アエーシュマの脅威から逃れる為にやっと造りあげた。

 クレールは両親を亡くしてから治安隊のジャンさんに保護され、ずっとあそこで暮らしていたそうだ。


 そんな地下の街の上に暮らしているとグラファイトが知ったら、彼は一体どうするだろう……

 考えても、僕にそれは分からなかった。


 朝食の席で、男の子の事をグラファイトにお願いすると、彼は快く引き受けてくれた。


「そのような事情でしたら、喜んでこちらで引き受けましょう。憎むべきはアエーシュマですから」


 グラファイトはそう言いながら男の子に手を差し伸べたが、男の子はなかなかカナリから離れようとはしなかった。カナリとレイ、そしてミュールさんに優しく諭され、やっと決断したように俯きながら頷いた。
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