緋色の勇者、暁の聖女
 何も分からない場所で一人になる不安は、僕もよくわかる。自分がこの世界に来たとき、そうだったから。

 だけど僕たちが連れて行くわけにもいかなかった。僕たちはまた旅に出なくちゃいけない。小さな男の子には、危険が多すぎるから。


 男の子はうつむいてずっと怒ったような顔をしていた。そしてミュールさんに手を引かれて、カナリにも礼を言う事無く、行ってしまった。




 準備をしてまた僕たちが旅に出発する頃には、もうお昼をまわっていて太陽は真上に既に昇っていた。

 ミュールさんは心配するカナリの為に男の子を連れて、グラファイトと三人で街の出口まで見送ってくれた。だけど、男の子はまだ怒ったような顔をして、誰の顔も見ずに、ミュールさんと手を繋ぎながら、じっと自分の足元を睨んでいるだけだった。


「――――残りの道中、お気を付けて」


 グラファイトはそう言って僕に手を差し出す。

 そっと握って握手をかわしたが、彼の手は冷たくて。グラファイトと握手をしているのに、僕はどうしてかジャンさんの事を思い出していた。

 ジャンさんの手は太陽のように温かくて、大きくて強かった……


「じゃあね、元気でいるんだよ? 旅が終わったら、会いに来るから」


 カナリはうつむく男の子の頭を優しく撫でていた。だけど男の子は何も答えない。いまだにじっと、足元を怒ったような顔で見つめていた。
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