緋色の勇者、暁の聖女
 知らないうちに、コップを持つ手が震えていた。中に残っている水が、その振動で小さな波をたてている。


 僕が、レイを?

 命と引き換えって事は、そういう事だよね?

 聖剣で貫くって、そういう事だよね……?


 僕がレイを…………殺す……?


 そんなの、出来るわけがない! 僕がレイを殺すなんて!


「どうして! なんで誰も教えてくれなかったの?! そんな事! 僕には出来ないよ……!」


 もしジャンさんがアエーシュマを倒そうなんて思っていなかったら。もし、何事もなく旅が無事に進んでいたら。




 僕は聖剣でレイを貫いていたのだろうか?




 ――――違う。

 たとえそうなっていたとしても、僕にはレイを貫く事なんて出来なかった。仲間であるレイを殺すなんて……


「だから言わなかったんだよ」


 ずっと顔をそむけていたレイが、僕をまっすぐ見つめた。


「それを知ったら、緋絽くんは旅には出てくれなかったよね……だから、私がみんなに言わないでって、口止めしたんだよ」


 確かに、初めからそれを知っていたら。カナリが泣いても、クレールに何を言われても、僕は旅には出なかったと思う。

 だけど……!




「ずっと黙っていて、ごめんね……」




 レイに泣きそうな顔でそう謝られ、僕は何も言えなくなってしまった。

 知らない世界へ来たとか、アエーシュマが怖いとか、そんな事をやっと乗り越えた僕よりも。レイはずっとずっと大きな覚悟で旅をしていたんだ。


 自らの死を覚悟して……

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