緋色の勇者、暁の聖女
 ミュールさんはお供の男性と一緒に、グラファイトのいるガーディ本部へ帰って行った。

 別れ際に彼女はレイの手を握り、何かを言おうとしていた。だけど、結局二人は何も言葉は交わさなかった。ただじっと見つめ合い、そのお互いの心を伝えようとしただけで終わってしまった。

 でも、前のような別れではなく。二人の間に微かな希望の炎が灯ったような温かいものだった。




 辺りはすっかり夜になっていた。

 僕たちはこれからの事を考える為、今日はこの草原で夜を明かす事にした。ここは見晴らしがいいから、もし敵が来ても見つけやすいだろう。

 聖女の旅をしていた時のように、みんなで分担して火を焚いたり寝床の準備をした。簡単な夕飯が済むと、火を囲んでみんな黙り込む。


「これから、どうしたらいいのかな……」


 火を見つめながらカナリがポツリと呟いた。それは僕も同じ気持ちだ。オプトゥニールは僕たちに戻ってきた。だけどこれを使う事はできない。


 だってそうしたら、レイが……


 ジャンさんみたいに、この剣の力を使った別の方法を考えなきゃいけない。オプトゥニールを使わなくても、どうにかしてアエーシュマを倒す方法を見つけ出さなきゃ……それにはやっぱり、ジャンさんを助け出しに行った方がいいのかな。

 どうしていいのか分からず、僕の心はあっちこっちに揺れていた。

 僕がそんな事を考えていると、隣に座っていたレイが言った。


「みんな、私の話を聞いてくれないかな」


 クレールもカナリも、その言葉でうつむいていた顔を上げる。それを確認してからレイは話を続けた。
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