緋色の勇者、暁の聖女


「これからどうしたらいいのか、ずっと考えてた……このままじゃ、ダメだと思うから」


 レイは一体何を思い付いたのだろう。僕は彼女の話にじっと意識を集中した。




「私、聖女の旅を続けようと思う」




 息が止まるかと思った。レイのその言葉を聞いたとたん、吸い込んだ空気が喉の途中で止まってしまったから。


「そんな! そんな事したらレイが……!」


 最初に叫んだのはカナリだった。泣きそうな声で、驚いたように。


「……うん、わかってる」

「だったらどうして?! レイが死んじゃうなんて! そんなのあたし嫌だよ!」


 僕だってカナリと同じ気持ちだ。

 ミュールさんの聖女の旅をたった今止めたばかりなのに。レイだって、ミュールさんが死ぬのは嫌だと言っていたのに。

 彼女はそんな僕たちの気持ちとは反対に、笑った。


「初めに戻るだけなんだよ。私は、アエーシュマを倒す為に聖女になって旅をするって、ずっとずっと前に自分で決めた。そこに戻っただけだよ。それに……私は、ただ死ぬんじゃない。みんなの未来の為に『暁の聖女』になるんだよ」


 この世界の古い言い伝えの、暁の聖女……

 聖女は、修行をして星の印を授かっただけでは、暁の聖女にはなれない。

 勇者と共に旅をし、聖剣に力を宿し悪魔を打ち倒して災厄の時を終わらせ。世界に平和の夜明けをもたらす事で、やっと暁の聖女と呼ばれるそうだ。

 旅の途中、そんな話をレイから聞いたのを思い出した。その話を聞いた時は、僕は何も知らなくてふうん、と思っただけだったけど。
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