緋色の勇者、暁の聖女
 魔物は怖いけど火も焚かれているし、追い払う事ぐらい僕にだってできるだろう。それにこの岩山にはあまり大きな生き物はいないみたいだった。


 僕は一人で焚き火の炎を絶やさぬように座っていた。

 しんとした、夜の闇。風が吹くと、山のふもとの森の木がザワザワと音を立てる。頭上には満天の星。

 標高が高いせいか、この世界が汚染されていないからか。どちらか分からないけれど、いつもより一層、夜空の星はよく見える。まるでキラキラとした宝石が、暗闇で輝いているようだ。

 しばらくぼんやりと星を眺めていると、誰かが起きてくる気配を感じた。初めはクレールかと思った。心配して早く起きてしまったのだろうと。

 だけど、暗闇から近づいてきて焚き火の炎に照らされたのは、レイの顔だった。レイはゆっくりと近づくと、僕に言った。


「隣、座ってもいいかな」

「別にかまわないけど……」


 いつかどこかで聞いたような会話。僕がそう答えると、レイはおかしそうにクスクス笑いながら僕の隣に座った。


「緋絽くんはいつも同じ返事だね。変わらない……それにすごく安心できる……」

「そんな事もないけど……でも、どうしたの? 眠れないの?」


 僕のその問いにレイは答えなかった。黙ったまま手元にあった薪に使っている木の枝を一つ、炎に投げ入れる。

 ……なんだかいつもと違う気がした。

 レイの顔はいつもと同じ、優しそうな柔らかい表情だけど、少し違う……何が違うのかは分からないけど。

 彼女は細い枝をまた手に取ると、それで焚き火の炎をつついたりしていた。
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